開花宣言から一週間。まったく春の気配が感じられない上野にVOCA展を観に行く。清水堂の周りで、数組がシートを敷いて酒を飲んでいたが、桜はどれもまだ莟のままだった。

ここ数年で、VOCA展の「平面」の定義の幅もだいぶ拡がって、様々なメディアの作品が並ぶようになったけれど、やっぱりこの展覧会の会場では、21世紀になっても絵筆をもってキャンバスに向き合う若い「画家」たちがいるということに励まされる。
個人的には、竹内明子さんと青木恵美子さんの作品が好きだった。竹内さんの作品を包む軽やかなポエジー(「ポエジー」って言葉をアート系ライターが安易に使うべきではないと思うけれど)、青木さんの作品の赤色の吸引力が印象に残った。併設のギャラリーでは、関連企画として金氏撤平さんのインスタレーションの展示があった。

美術館を出た後、公園を抜けて、大江戸線で御徒町から門前仲町に移動。不動尊前のMONZ CAFEでフラットホワイトをテイクアウトして、木場のgallery COEXIST-TOKYOで開催中の小林耕二郎さんの個展[動 ブツ たち 動く]へ。
このギャラリーでの耕二郎さん(と、いつもお名前で呼んでいる)の個展は3回目になる。全回観てきたけれど、今回は初めて天井高のある1Fでも作品を展示した。地面に掘った穴を象った彫刻が、垂直方向に伸びたのは面白かった。
スタッフのSさんからギャラリーの近況を聞いて、会場を後にする。4月から、1FのEARTH+GALLERYと2Fのgallery COEXIST-TOKYOは統合されるらしい。
求職中から一年余り通った街をふらふらと歩きながら、清澄白河駅方面へ。まだ肌寒いものの、夕暮れに川縁を歩くのはやはり気持ちがよい。途中、祭りの準備なのだろうか、二カ所で集会をしているらしい人声と拍子木の音が聞こえてきた。TAP galleryをのぞくと、鈴木隆朗さんの写真展を開催していた。資料館通りに出ると、いくつかの店舗が変わっていたけれど、一番賑わっていたのは相変わらず大衆居酒屋のだるまだった。
無人島プロダクションでは、Chim↑Pom展「The other side」を開催していた。「ボーダー」をテーマにした、メキシコとアメリカの国境沿いで制作したアートプロジェクト。少なくとも僕自身にとっては、地続きに隣国がある、という状況は余りリアリティのあるものではくて、Chim↑Pomの今回の一連の作品は、政治的な境界における問題や不条理を、視覚的にシンプルかつダイレクトに提示しているように思った。ギャラリーの壁には、簡単に乗り越えられるような貧相な国境壁の片側に、自由の国アメリカへ入国できない人々が暮らすスラムが拡がる様子が映し出されていた。

無人島プロダクションから少し行ったところにMEDIUMというメキシコ料理の店があったので、これも何かの縁だと入ってみると、店内に知り合いの写真作品が展示されていた。白穂乃香を扱っていたので、オリーブとセミドライトマトと一緒に注文。空腹だったので、さらにジャークチキンも頼んだ。料理を待つ間、店の人と世間話をした。現代美術館が休館してから、だいぶ人通りは減ったらしい。
さらに色々話していたら、共通の知り合いがいた。世間は狭い。世間は狭いのに、僕は世界で起きていることをほとんど知らなくて、今日アメリカとメキシコの国境のことを少しだけ知って、メキシコ料理の店で、知り合いの写真を見ながら酒を飲んでいる。不思議なものだ。いかんせん体調が芳しくなかったので、テキーラは次回にお預けにして失礼した。
家に着く頃に雨が降ってきた。今年の桜はだいぶ焦らすなぁ。
