府中市美術館「与謝蕪村 「ぎこちない」を芸術にした画家」

今年は桜の花の時期を避けて、府中へ。与謝蕪村が京都に暮らす以前の作品にも光を当てた展覧会。

確かに蕪村の「ぎこちなさ」はある程度意図的だ。ただ敢えて下手に描いている訳ではなくて、本当に下手なのだけれど、特に上手く描こうとしていない風に見える。そういう作為の排除みたいな姿勢が受け入れられたのだろうか。とは言え、個人的には、やはり京都時代の作品が好い。

終生一貫しているのは、爽やかな色遣いで、これは生まれ持ったものなのだろうと思う。特に青の使い方が非常に瑞々しく上品だ。

久々に絵心が疼く展覧会だった。

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/tenrankai/kikakutenkaisai/buson.html

シンポジウム「河鍋暁斎 浮世絵師か狩野派か」

蕨市文化ホールにてシンポジウムを聴講。コロナ禍で久々の講演会参加。

◆プログラム◆
第一部・講演「絵師 暁斎」河鍋楠美(河鍋暁斎美術館理事長・館長)
第二部・講演「浮世絵師としての河鍋暁斎」日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)
「河鍋暁斎とは?-狩野派と浮世絵の狭間で」佐藤道信(東京藝術大学美術学部教授)

第一部の河鍋先生の講演は、相変わらず愛とエネルギーに溢れていた。第二部の講演は、お二人とも非常に明晰で、改めてハッとさせられる内容だった。道信先生が最後に「今日は収穫がありました」とおっしゃっていたけれど、本当に河鍋暁斎の立ち位置の特異さを再認識する一日だった。

こちらのtwitterのスレッドが素晴らしいまとめ。

お仕事情報:文庫解説『蔦重の教え』

不思議なご縁で、初めて文庫解説のお仕事をいただきました。2014年に飛鳥新社から刊行された車浮代さんの小説『蔦重の教え』が双葉文庫に。その巻末の解説を執筆させていただきました。

崖っぷちサラリーマンの主人公が、江戸時代にタイムスリップし、版元・蔦屋重三郎の元で人生のノウハウを学ぶというストーリー。当時「実用エンタメ小説」と銘打って発売されたものですが、ここ最近のアートを絡めたビジネス書や転生モノの流行をかなり先取りしていたかのような作品です。

最初にお声がけいただいたときは、文庫化にあたって「ブックレビュー」をお願いしたい、ということだったので、ふたつ返事で神楽坂の双葉社さんにおうかがいしたところ、なんと「文庫解説」の大役。躊躇したものの、自身にとっても大きなステップアップになると思い、分不相応ながらお引き受けしました。

年末、小説を拝読し、僕がこの「解説」でするべきことはなんだろうと考えました。タイムスリップという設定が非現実的ではあるものの、そこかしこで物語が史実とリンクしていて、車さんが描く蔦重のキャラクターには、非常にリアリティがありました。現代の合理性では括れない変幻自在の才能が、掴みどころなく懐深い一人の人物像に結実しているのです。

この蔦重が、車さんの丁寧な歴史研究と江戸文化に対する深い造詣から構築されたものであることを、第三者として明言することが、僕が「解説」で果たすべきことだと思いました。本文が比較的、会話中心に進行する軽やかな文体なので、解説は敢えて堅めの文体にした方が、解説の趣旨が読者に伝わると思いました。

また原稿の途中で行き詰まった際に、この方向性で間違いないと背中を押してくれたのが、高橋克彦先生の帯文の言葉でした。「評伝として超一級……なのになぜSFなのだろう。……そしてそれは正しかった、と読後に感じた。」高橋先生が「評伝として超一級」とおっしゃるなら、僕の感じたリアリティは間違っていない。

僕は、蔦重の功績のすべての根本には、「接人以信(人に接するに信を以てす)」という彼の基本姿勢があると思っています。この墓碑の一節を引用しながら、なるべく小説本文の言葉を拾い上げ、解説を書きました。双葉社文庫編集部・編集長の丁寧な校正もあり、「お陰様」で、車浮代さんご本人にも、喜んでいただけたようです。また電子書籍にも掲載いただけることになりました。

多くの方の元に、蔦重の教えが届きますことを。
車浮代『蔦重の教え』双葉文庫

東京都美術館「没後80年 吉田博展」

こんなにも先進的な感覚を持った人がいたのだなと、ただただ感服するばかりだった。久留米出身の画家は、志の高い人が多いように思う。

ほぼ制作年代順に、東京都美術館の三フロアに展開する会場のうち、1920年代後半の作品を扱った第一フロアに代表作が集中していることからも、彼の熱心さと才能がうかがえる。

吉田博がいなければ、今日の日本の木版画に対する評価は、今少し違っていたのではないか、そんな風にすら思った。

三井記念美術館「小村雪岱スタイル」&千代田区日比谷図書文化館「複製芸術家 小村雪岱」

春の陽気に誘われて、日本橋と日比谷で開催中の小村雪岱の二つの展覧会を巡った。今尚、緊急事態宣言下であり、また時間も限られたことから、両会場とも小一時間も滞在しなかったが、小村雪岱の画技の堅実さと意匠の革新性に改めて触れることができたように思う。

スクラップブックに貼り込まれた新聞の連載小説の切り抜きがなんとも愛おしかった。

http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html