お仕事情報:ethica

この春から、ethica(エシカ)というウェブマガジンで執筆させていただくことになりました。
http://www.ethica.jp

一番最初の取材は、GINZA SIXのオープニング。草間彌生のかぼちゃバルーンを「祝祭的でポップな色調」なんて、ずいぶん能天気な表現をしてしまったなぁ、と。
しかし、こんな華やかな銀座の商業施設のオープニングに、あくまで「現代アート」として天井からぶら下がっていられる草間作品って、やっぱり強い。国立新美術館で開催中の個展も大盛況の模様。テンション、かなり上がりました。

■ 国内外の観光客を強く意識し、文化的コンテンツの発信に力を注ぐ銀座の新スポット
http://www.ethica.jp/35410/

お仕事情報:美術手帖

坂本龍一が表紙の『美術手帖』5月号。毎度小枠のお仕事ですが、BOOKのページで下記の2冊の本を紹介しています。

土田昇『職人の近代 道具鍛冶千代鶴是秀の変容』みすず書房
ネルソン・グッドマン/戸澤義夫・松永伸司訳『芸術の言語』慶應義塾大学出版会

『職人の近代』の著者がどこまでも謙虚で丁寧なものだから、『芸術の言語』のネルソン・グッドマンが余計に高慢な感じでした。頭の良すぎる人のジョークって、なんでこんなに鼻につくんでしょう。(おそらく僕なんぞ気づけてない偏差値の高いジョークもいっぱいあるんだろうけれど。)
ちょっともったいないと思ったのは、『職人の近代』の書名と内容の乖離です。一人の名工が迎えた、実直でささやかで愛おしい「近代」が、なんだかすごく大雑把にまとめられてしまったようで残念。

ウェブ版美術手帖に転載されています。
◼️ アートの本質と未来を考える。5月号新着ブックリスト
https://bijutsutecho.com/insight/3875/

花の便り

Shiba, TOKYO 2017

ようやっと東京の桜が咲いた。体調があまり思わしくなかったが、仕事が早めに片付いたので、目黒川を散歩してみることにした。池尻大橋駅から中目黒駅まで川沿いを歩いたが、今年の花は足並みが揃っていなくて、なんだか勢いがない。それでも待ちわびた桜を観に、平日の夕方とは思えない人出があった。

Ikejiri-Ohashi, TOKYO 2017

中目黒駅から日比谷線で六本木へ移動し、森美術館で開催中の「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」へ。全く知らないアーティストの個展だったけれど、聞こえてくる評判が好いので行ってみた。ピンク色のポスターに「チャーミングな旅」というタイトルから、もっと陽気で楽観的な雰囲気の展覧会かと思っていたが、予想に反して、経済成長の功罪−−特に労働と格差の問題を扱ったような批判精神の旺盛な作品が多かった。
ただ、曼荼羅図やテキスタイルのような、小さなモティーフを画面に敷き詰める「作風」のためか、ハルシャの作品からは、あまり社会批判の泥臭さを感じない。西洋絵画史のデッサンの観点から言えば稚拙な描線、時折顔をのぞかせる子供の思いつきのような冗談めいてやや謎めいたモティーフが、非西欧文脈の現代美術の立ち位置を明快にしていた。

Roppongi, TOKYO 2017
Roppongi, TOKYO 2017
Roppongi, TOKYO 2017

また、モティーフの反復を立体的に見せたミシンのインスタレーション、子供とのワークショップの成果展示も、絵画作品のテーマと手法をそのまま引き継いで、展示構成に統一感があった。最後の部屋に展示された大作は、月並みな感想ではあるけれど、日本で形成された宗教や思想のルーツに、やはりインドがあることを思わせて、壮観だった。

Roppongi, TOKYO 2017

美術館を出て、complex665とピラミデビルのギャラリーをいくつか梯子する。TOMIO KOYAMA GALLERYでは、パウロ・モンテイロというブラジルの作家の個展をやっていた。ミニマルな感じだが、作品の大小・形態を問わず、語りかけたくなるような、どこか愛着のわく動物くささみたいなものがあって良かった。OTA FINE ARTSでは、十年前に亡くなった松澤宥の展覧会が開催されていた。

翌日、思いがけず休みをもらえることになった。風は強かったが晴天だったので、芝増上寺の御忌大会に出向く。黄檗幽茗流の野点席で煎茶をいただき、舞楽の奉納を鑑賞し、寺内をぶらぶらした。敷地内でカメラを携えた警視庁の人が歩いていたので、なにやら物騒だと思っていたら、ここ数日の間に各地で被害が報告されている液体事件のようだった。油のような染みが重文の三解脱門にも確認されたとのこと。なんとはなしに気味の悪い事件である。

Zojoji, TOKYO 2017
Zojoji, TOKYO 2017
Zojoji, TOKYO 2017

特に予定もないので、練行列を見て、宝物展示室で「台徳院殿霊廟模型」を鑑賞した。高村光雲らが監修したこの模型は、当時の職工たちを集めて制作したものだそうだ。明治43年の日英博覧会に出展された後、英国王室のコレクションに収められていたものが、二年前に増上寺に里帰りした。戦災で焼失した霊廟の姿を伝える貴重なもので、見えない細部へのこだわりが尋常でなかった。

寺を出て、大門へ行く途上の更科布屋で遅めの昼食をとる。銀盤の純米吟醸に焼き茄子ともり。ほどよく酔ったところで、ふと思い立って、東京ステーションギャラリーへ向かった。「パロディ、二重の声――日本の一九七〇年代前後左右」と題した展覧会を観る。どちらかというと「じっくり読み込む」タイプの展覧会だったが、いかんせん酒が廻って、あまり頭に内容が入って来ず、失敗した。意欲的な展覧会だったが、この手の展覧会は、文化としての厚みや多彩さを見せるのが難しいと改めて思った。

体調不良もあって、ひとり物静かな花見ではあったが、久々にのんびりできた二日間だった。

桜はまだかいな

開花宣言から一週間。まったく春の気配が感じられない上野にVOCA展を観に行く。清水堂の周りで、数組がシートを敷いて酒を飲んでいたが、桜はどれもまだ莟のままだった。

Ueno, TOKYO 2017

ここ数年で、VOCA展の「平面」の定義の幅もだいぶ拡がって、様々なメディアの作品が並ぶようになったけれど、やっぱりこの展覧会の会場では、21世紀になっても絵筆をもってキャンバスに向き合う若い「画家」たちがいるということに励まされる。
個人的には、竹内明子さんと青木恵美子さんの作品が好きだった。竹内さんの作品を包む軽やかなポエジー(「ポエジー」って言葉をアート系ライターが安易に使うべきではないと思うけれど)、青木さんの作品の赤色の吸引力が印象に残った。併設のギャラリーでは、関連企画として金氏撤平さんのインスタレーションの展示があった。

Ueno, TOKYO 2017

美術館を出た後、公園を抜けて、大江戸線で御徒町から門前仲町に移動。不動尊前のMONZ CAFEでフラットホワイトをテイクアウトして、木場のgallery COEXIST-TOKYOで開催中の小林耕二郎さんの個展[動 ブツ たち 動く]へ。
このギャラリーでの耕二郎さん(と、いつもお名前で呼んでいる)の個展は3回目になる。全回観てきたけれど、今回は初めて天井高のある1Fでも作品を展示した。地面に掘った穴を象った彫刻が、垂直方向に伸びたのは面白かった。
スタッフのSさんからギャラリーの近況を聞いて、会場を後にする。4月から、1FのEARTH+GALLERYと2Fのgallery COEXIST-TOKYOは統合されるらしい。

求職中から一年余り通った街をふらふらと歩きながら、清澄白河駅方面へ。まだ肌寒いものの、夕暮れに川縁を歩くのはやはり気持ちがよい。途中、祭りの準備なのだろうか、二カ所で集会をしているらしい人声と拍子木の音が聞こえてきた。TAP galleryをのぞくと、鈴木隆朗さんの写真展を開催していた。資料館通りに出ると、いくつかの店舗が変わっていたけれど、一番賑わっていたのは相変わらず大衆居酒屋のだるまだった。
無人島プロダクションでは、Chim↑Pom展「The other side」を開催していた。「ボーダー」をテーマにした、メキシコとアメリカの国境沿いで制作したアートプロジェクト。少なくとも僕自身にとっては、地続きに隣国がある、という状況は余りリアリティのあるものではくて、Chim↑Pomの今回の一連の作品は、政治的な境界における問題や不条理を、視覚的にシンプルかつダイレクトに提示しているように思った。ギャラリーの壁には、簡単に乗り越えられるような貧相な国境壁の片側に、自由の国アメリカへ入国できない人々が暮らすスラムが拡がる様子が映し出されていた。

Fukagawa, TOKYO 2017

無人島プロダクションから少し行ったところにMEDIUMというメキシコ料理の店があったので、これも何かの縁だと入ってみると、店内に知り合いの写真作品が展示されていた。白穂乃香を扱っていたので、オリーブとセミドライトマトと一緒に注文。空腹だったので、さらにジャークチキンも頼んだ。料理を待つ間、店の人と世間話をした。現代美術館が休館してから、だいぶ人通りは減ったらしい。
さらに色々話していたら、共通の知り合いがいた。世間は狭い。世間は狭いのに、僕は世界で起きていることをほとんど知らなくて、今日アメリカとメキシコの国境のことを少しだけ知って、メキシコ料理の店で、知り合いの写真を見ながら酒を飲んでいる。不思議なものだ。いかんせん体調が芳しくなかったので、テキーラは次回にお預けにして失礼した。

家に着く頃に雨が降ってきた。今年の桜はだいぶ焦らすなぁ。